昨年末にポストした自転車選手は冬作られる!の第三弾です。事あるごとに言っておりますが、冬場にどれだけ積み上げられたかでシーズンの出来が決まります。
シーズンの初めは絶好調だったけれども怪我や病気といったアクシデントで失速した後に復活する選手はいても、春先に戦えるレベルに達していない選手がシーズンに大活躍という事はありません。これはツール・ド・フランスといった世界最高峰のレースから市民レースまで変わりません。
それではオフの時期に何をするべきか。まずは過去にポストした自転車選手は冬作られる!のその①とその②をご覧ください。このように、有酸素能力の土台作りや弱点強化、そしてストレングスとオフに取り組まなければならない事は多岐にわたります。
これらを全てこなした上で、有酸素能力の上限を決めるVO2maxを向上させるようなトレーニングを行うのは時間的にも肉体的にも困難です。
しかし、困難だからといって放置し能力を低下させてしまうのは勿体無い話しです。本日のテーマはVO2maxを維持するのに必要な頻度や強度、時間について科学的知見を基に考えてみたいと思います。
最低限の量をこなしてある能力を維持し、残りの時間を他に割くというトレーニングを引き算で考える方法の一助になれば幸いです。
頻度について
まずこちらの研究をご覧ください。Rønnestadが下記のような報告をしております。
概要
・よく訓練されたサイクリスト(平均VO2max 69±6 ml/kg/min)13名が対象
・8週間の移行期間と16週間のプレシーズン時にテストを行った
・7~10日に1回HIIT(High intensity interval training)を実施したグループ(EXP)とLIT(Low intensity interval training)のみ実施したグループ(TRAD)とで比較した
・HIITセッションとは5×6分又は6×5分(88-100%HRmax)を指す
結果
・VO2max、VO2max時のパワー、血中乳酸濃度4mmol時のパワー、40分タイムトライアル時のパワーにおいて、LITのみのTRADに比べてHIITを行ったEXPグループの方が有意に高い数値を示した。
この研究から、VO2maxが69ml/kg/minを超えるような高いレベルの選手でも、7~10日に1回HIITを行えばVO2maxを維持・向上が可能と示唆されています。
従って、週に1回程度は高強度のトレーニングを行い、残りの時間を他に割り当てるというのが合理的ではないかと考えられます。
ロードだけではなくシクロクロスを行っていらっしゃる方ならば、それを高強度のトレーニングとスキル練習と捉えて他は持久的なトレーニングや筋力の向上に努めるのも良い選択だと思います。
強度と時間について
それでは1回のセッションでどれくらいの量をこなせば良いのか。Buchheit と Laursen の研究によるとエンデュランススポーツの選手は1セッションに>VO2max90%の強度を10分以上行う事を推奨しております。
10分と聞くと大した事なさそうに思われるかもしれません。しかし、酸素摂取量がVO2max90%以上というのが曲者です。運動開始時から酸素摂取量が増大していくのにはタイムラグがあり、VO2max90%以上に達するのに1~2分かかると言われています。
従って4×3分では若干足りず、5×3分とか4×4分、3×5分といった結構な量をこなす必要があります。しかもレベルが高くなればなるほど要求される量は増えます。
この練習量をこなすのはなかなか困難なので、1日は高強度の日と決めて集中して行うのを推奨いたします。時間をもっと短縮したい場合はレスト時間を短くしたり、レスト中の強度を上げるといった工夫を行うと良いでしょう。
過去にHIITについてポストしておりますので詳しくは「シーズンインに向けて準備はお済みですか?~高強度インターバルトレーニングのイロハ~」をご参考ください。
まとめ
・ある能力は維持するのに留めて、他のトレーニングに時間を使うという考え方が必要。全てを満遍なく行うのは時間的にも肉体的にも困難。
・オフでも7~10日に1回は高強度のトレーニングを行おう。
・1セッションで>VO2max90%の時間を10分以上確保しよう。
・酸素摂取量が>VO2max90%に達するには運動開始時から1~2分掛かるので注意が必要。ZONE5の時間がそのまま当てはまる訳ではない。
個人的には土曜日といった比較的まとまった時間が確保出来る日に行う事が多いです。最初は5×3分でスタートし、クリア出来たら5×4分、5×5分といった具合に量を増やしていく。ある程度出来そうだなと感じたら時間を短くして強度を上げる。もしくはラスト〇分だけペースを上げるといった具合にプログレッションすることが多いです。
良いシーズンを過ごすために今から頑張ってください。このポストがその一助になれば幸いです。
編集後記
12月16日(日)に伊藤コーチと共同でセミナーを開催いたします。
私は座学担当でストレングストレーニングを行う必要性。エンデュランススポーツに対してどういった効果が見込めるのか。持久的トレーニングとストレングストレーニングを組み合わせたプログラムデザイン。レースに向けたピーキングについてお話しする予定です。
なお、10月10日に行ったサイクルショップマティーノ様主催の時にお話しした内容と重複する部分が御座います。もし、前回お越しくださった方がご検討されていたらその点をご了承願います。
実技は私もお手伝いする予定です。
詳しくはこちらの伊藤コーチのブログをご覧ください。多くの方が手を付けていない分野を先取りするためにも是非ご参加ください。お会いできるのを楽しみにしております。
(注)伊藤さんの旧HPが閉鎖されリンクが切れている模様です。
参考文献
Rønnestad BR
HIT maintains performance during the transition period and improves next season performance in well-trained cyclists.
Eur J Appl Physiol.2014 Sep;114(9):1831-9.
Buchheit M & Laursen PB.
High-intensity Interval training,solutions to the programming puzzle Part Ⅰ:cardiopulmonary emphasis.
Sports Med. 2013 May;43(5):313-38.