論文紹介:どうもローラーは様式によって使われる筋肉が異なるらしい

トレーニング

ちょっと頼まれごとがあり、調べ物をしていたら面白そうな論文を見つけたので簡単にご紹介いたします。原著はコチラです。

The Effect of Turbo Trainer Cycling on Pedalling Technique and Cycling Efficiency

固定式ローラーと自転車用のトレッドミル(コチラ)でサイクリング効率と筋電図に違いが生じるのかを測定したという研究です。

時間効率を考えるとローラー台での練習は有効な選択肢と言えます。しかし、走った感触が異なり苦手意識を持つ方や嫌悪する方も多いと思います。ただ、体感的なモノであり科学のメスを入れるとどうなるのかというのは初めて見ました。面白い試みなのでちょっと考えてみたいと思います。

概要

・週に6時間以上のトレーニングを行い、下肢運動に対し医学的に問題の無い19名の男性サイクリストが被験者。

・実験の順番による疲労度の差を避けるため、グループを2つに分け固定式・トレッドミルによるテストを交互に行った。

・各グループは固定式・トレッドミル双方で150W・200W・250Wと合計6つの状況下で走行し、筋電図・ガスアナライザーによる測定を行った。

結果

・19名中2名が250Wのテストを完了できず除外。17名のテスト結果。

・トレッドミルに比べて固定式は外側広筋・前脛骨筋・大腿直筋の筋活動がそれぞれ7%、14%、17%高かった。

・固定式に比べてトレッドミルは大臀筋・腓腹筋・大腿二頭筋の筋活動がそれぞれ10%、14%、19%高かった。

・サイクリング効率に有意差は無かった。なおサイクリング効率とは下記のように定義している。

”the ratio between external work and energy expenditure”
実際の仕事量とエネルギーの消費量の比率

・サイクリング効率に有意差は無いにも関わらず、固定式の方が滑らかではなく不快であるという報告が被験者からはあった。

私見

固定されているのと、ある程度自由に動けるので明確に異なるのだなというのが第一印象です。それぞれの理由について考えてみたいと思います。

固定式の方は大腿直筋と前脛骨筋、外側広筋の筋活動が高いようです。大腿直筋は股関節の屈曲に関与します。そして前脛骨筋は爪先を持ち上げる動作に関与します。どちらもペダルを引き上げる際によく動員される筋肉です。

固定式だと常に負荷が掛かります。普段ならば慣性で回ってくれるのに負荷が掛かるためペダルの回転速度が落ちます。それを普段通りに維持するため引き足を使わなければならず、こういった結果をもたらしている。

そして、大腿直筋と外側広筋は膝を伸ばす動きを担う筋肉です。普段よりも前腿に負担が掛かっていると考えられます。

トレッドミルだと大臀筋と大腿二頭筋、腓腹筋の割合が大きくなるようです。大臀筋と大腿二頭筋は股関節の伸展に関与し、腓腹筋は足関節の伸展です。股関節主導の動きになる模様です。

こういった筋活動の変化が、固定式を使用する際の不快さに影響しているのではないかと思われます。

 

面白いのは筋活動に変化があったにも関わらず、サイクリング効率に変化は生じなかった点です。踏むペダリングよりも回すペダリングの方が良いという言質を見かけますが、この研究からではそういう事を言えなさそうです。

勿論、下死点で踏み込んでも力の無駄遣いです。しかし、世間一般に流布されているほど引き上げる動作に注力しなくても良いのではないかと考えられます。推進力を生みださない点で踏んだり引き上げたりしなければそれで良いのではないでしょうか。

注意点としては、固定式だと横方向のズレが機材によって抑制されます。トレッドミルだと生じるはずのズレが無い事でプラスもしくはマイナスの影響があるかもしれません。従って、この研究でのサイクリング効率をそのまま鵜呑みにする訳にはいきません。

最後に筆者の提言なのですが、固定式のローラーを使用することで新しいペダリング技術を習得できると言っています。この点はなるほどと思いました。

実走とは異なるのだから固定式は余り使わない方が良いと考えておりましたが、踏み込みにムラのある選手に対して固定式のローラーを敢えて使わせる。そうすると踏み込む動作が減り、引き足を使うようになると予想されます。結果としてムラの無いペダリングを習得できるかもしれません。

それに、固定式ならば安全なので体の使い方に集中出来るのも良い影響を与えるかもしれません。固定式のローラーは体力養成と捉えておりましたが、物は使いようだなと考えさせられました。宜しければご参考ください。

編集後記

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詳しくはこちらのホームページより

参考文献

Arkesteijn M

The Effect of Turbo Trainer Cycling on Pedalling Technique and Cycling Efficiency

Int J Sports Med.2013 Jun;34(6):520-5

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