いきなり言い訳がましいのですが、オフシーズンが終わってからだと余り意味を成さなくなってしまうので、前回のポストで予告したものとは異なる内容について記載しております。ご容赦願います。
さて、オフシーズンに本来行っている競技とは異なる種目に挑戦される方がいらっしゃるかと思います。例えば、自転車競技のアスリートがランやスイムを行うといった具合です。それをクロストレーニングと言います。
割と質問を受けることがあるのですが、クロストレーニングが実際に競技力の向上に繋がるのかどうかについて現時点での考えをまとめてみたいと思います。
結論から申し上げると、クロストレーニングが直接的に競技力の向上に繋がるかと言えば疑わしく、その時間を本来の競技そのものに充てた方が有効である。
しかし、燃え尽き等を防ぐために有効な選択肢である。また、競技のみでは鍛えられない部位を強化することで良い影響をもたらすかもしれず、結果的に競技力の向上に繋がるかもしれないというのが私の見解です。
他種目に置き換えた場合について
そう考える根拠について述べていきます。まず、修士論文になりますがHonea(2012)の研究をご紹介いたします。
どういったことを行ったかというと、高校生のクロスカントリーランナーに対し、ランの代わりにエアロバイクまたはエリプティカルトレーナーを行う群と、通常のランを実施するコントロール群に分け5週間トレーニングを実施しました。
その結果がどうなったかというと、VO2maxおよび乳酸閾値に関してはどの群おいても有意差無し。しかし、3000mのタイムに関してクロストレーニング群は低下。コントロール群は有意とは言えないまでも改善しました。詳しくは下記の図をご覧ください。
被験者のレベル(平均VO2max 57.0~60.0ml/kg/min)がそこまで高くないのも影響していると思われますが、VO2maxや乳酸閾値が低下しなかったのは意外でした。
過去のポスト(低強度と高強度の一致点と相違点~主に血流能力において~)で触れているように、毛細血管等は鍛えた部位において適応が起こります。使わなくなった部位の低下を、普段とは異なる部位を鍛えることで補えたのかと考えております。
従って、クロストレーニングによって維持できる能力はある。しかし、タイムトライアルのパフォーマンスが低下していることから、本来の競技で必要となる筋力や技術を維持するのは困難であり置き換えてしまえるものではなさそうです。
本来の競技にクロストレーニングを追加したら?
先ほどは完全に置き換えてしまった場合についてのお話しです。気になるのはクロストレーニングをプラスアルファしたらどうなるかです。Foster(1995)が次のような報告をしております。
基準となるランのトレーニングに、ランまたはスイムを追加(+10%/週)した群と、通常のトレーニングを継続したコントロール群で比較しました。8週間に及ぶトレーニングを課した結果は下記のとおりです。
3.2kmのタイムトライアルにおいて、ランを追加した群は-26.4秒。スイムを追加した群は-13.2秒。通常のトレーニングを継続したコントロール群は-5.4秒でした。
コントロール群では有意差無し。ランやスイムを追加した群においては競技力の有意な向上が認められました。
練習量を増やした効果なのか、それとも普段とは異なる部位を鍛えることが競技力の向上に繋がったのか理由は分かりません。ただ異なる種目を追加することによって競技力を向上させる可能性はありそうです。しかし、メイン競技そのものを同量増加した場合ほどの効果は見込めなさそうでもあります。
まとめ
本日の内容をまとめてみたいと思います。まず、特定の能力を維持することは可能だとしても、メインとされている競技を他の種目に置き換えると競技力そのものの維持は難しそうです。
メインとされている競技に他種目をプラスアルファすると競技力の向上に寄与する可能性はありそうです。しかし、メインの競技を同量増やした場合よりも効果は低そうです。
従って、特定の競技における競技力を向上させたいのならば、それ自体を行うのが最も適していると考えられます。
それではクロストレーニングを避けるべきかと言えばそうではないだろうと思います。例えば、足を怪我してしまったので上半身をメインで使用するスイムを取り入れる。或いは、特定の競技に対してモチベーションが落ちているので、体力を維持するために他の種目を行うといった使い方は有効だろうと思います。
他にも、クロストレーニングを組み込むことで全体の練習量を増やせると考えられます。下肢をメインで使うランや自転車と、上肢をメインで使用するスイムを交互に行うといった具合です。
トライアスリートが良い例です。3種目をバランス良く配置することで週に20時間を超えるような練習量を割とこなせたりします。異なる種目とはいえ練習量を増やすことで得られるメリットを享受できるかもしれません。
練習量を大量に確保できる方が少しでも競技力向上を狙って実施する場合。もしくは怪我等で競技そのものを行うことが困難な場合。燃え尽きを避けるといった場合においてクロストレーニングは有効な選択肢であると思われます。
しかし、練習時間そのものが限られているのであれば、競技そのものに特化するのが効率良いだろうと考えております。
今回のポストが、現在進行形でクロストレーニングを取り入れている方やこれから試してみようかなと思っている方の参考になれば幸いです。
参考文献
Foster C
Effects of specific versus cross-training on running performance
Eur J Appl Physiol Occup Physiol. 1995;70(4):367-72.
Honea D
The Impact of Replacing Run Training with Cross-training on Performance of Trained Runners
Unpublished master’s thesis. Appalachian State University