私のブログでも度々触れておりますが、高強度インターバルトレーニング(HIIT)についての研究が近年盛んに行われております。
HIITは持久的アスリートのパフォーマンスを向上させるのに有効な手法であると考えられており、様々なやり方が考案されています。
5×6分のようなロングインターバルに比べて、1分未満の高強度運動とレストを繰り返すショートインターバルというやり方は比較的新しい手法です。
どちらが良いかは目的や状況に合致しているかどうか次第です。しかし、最近ではショートインターバルの有効性を主張するような報告が多いなと感じております。
そういった背景を基に有名な論文を紹介いたします。本日取り扱う論文はコチラです。
Superior performance improvements in elite cyclists following short intervals vs. effort-matched long intervals training
「vs」とあるように、ショートインターバルとロングインターバルを比較したものです。そして、ショートインターバルの方が有効であると主張する際によく引き合いに出される研究でもあります。
この研究における問題点を考えていくと同時に、研究結果を実際に導入する際どういった点を考慮しなければならないか述べてみたいと思います。
概要
抄録にまとめられているものを確認すると
・平均VO2max73±4mL/kg/minの男性サイクリスト18名が対象
・週3回、3週間におけるトレーニング介入
・13×30秒ON/15秒OFFを3セット、セット間のレスト3分のショートインターバル群(SI)
5分ON/2分30秒OFFを4セット、セット間のレスト5分のロングインターバル群(LI)を比較した
・トレーニングの総量と強度分布に有意差は無かった
結果
・LIに比べてSIは最大有酸素パワーが改善した(3.7±4.3% vs -0.3±2.8%)
・血中乳酸濃度4mmol時のパワーにおいて、LIに比べSIは改善した(2.0±6.7% vs -2.8±3.4)
・20分間の最大パワーにおいて、LIに比べSIは改善した(4.7 ± 4.4% vs -1.4 ± 2.2%)
・VO2maxにおいては両群共に有意差が認められなかった。
以上が抄録に記載された内容です。
言葉が何を意味しているか確認しよう
さて、上記の内容をそのまま受け取ればSIの方が優秀なやり方と言えそうです。しかし、筆者の主張には主観が入るので突っ込んで読んでいく必要があります。
最初に気になるのは両群における強度設定です。抄録だと強度分布に差は無いと記載されておりますが、メソッドを確認すると次のようなものでした。
Both groups was instructed to perform intervals with their maximal sustainable work intensity, aiming to perform highest possible average power output during each interval session.
両群共にインターバルセッション中は、平均出力を出来る限り最大化するために最大強度を維持するよう指示された。
そして、実際に行われたデータは下記になります。
この図を見ると平均で73Wの差があります。著者にとっての強度分布とはパワーではなく主観的運動強(RPE)を指していることが分かります。ここを勘違いすると解釈が大きく変わります。
筆者によると、やってみた辛さという実践的な手法で研究をデザインするために敢えてこのやり方を取ったそうですが、厳密さを問うならば強度を統一する。もしくは仕事量が同じになるよう本数を調整するべきだろうと思われます。
これでは高い強度で運動したり仕事量の多さが良い影響を与えたのかもしれません。従って、上記の結果をもたらしたのは運動様式による差であると言えません。
研究の条件を確認しよう
強度の次に気になる点は実験前と実験中における練習量の変化です。HIITを遂行するために普段とは異なる内訳になっております。研究に記載されている量を図にしてみました。
このように実験として介入する前と介入中とで練習量が52~60%程度に変化しております。この練習量の低下がテーパリングの要件を満たし結果に影響している可能性があります。
介入期間が3週間と短いですし、練習量の低下によってロングインターバルは体力の維持・向上という結果をもたらせなかったのかもしれません。
勿論、短い期間かつ少ない練習量でも効果を出せたショートインターバルが優秀であると解釈することも可能です。しかし、普段の練習にそのまま導入しても優れた結果を得られるかは分かりません。
実践した際のリスクを考慮しよう
それでは次に実践した際のリスクについて考えてみたいと思います。上記のようにショートインターバルの方が高い強度で運動しております。
最大有酸素パワーの94%前後を繰り返すのは困難です。そして、高い強度で運動すればそれだけ骨格筋や腱への負担は増します。また、解糖系の代謝が優位になります。
まだ体が出来ていない非鍛錬者には相当キツイものとなるでしょうし、高齢者のように酸素摂取の応答が鈍い方にとっても厳しいものとなるでしょう。被験者のように高いレベルにある選手向けのプロトコルと考えられます。
他にも、そのメニュー以外への影響も考慮しなければなりません。例えば、1日1時間の練習であれば単一のメニューのことだけ考えれば事足りるかもしれません。しかし、休日で数時間使えるのならば話しは別ですし、翌日にも疲労が残るならばその点も考慮する必要があります。
効果は高いけれどもそれ以外はこなせなくなるAというメニューよりも、そこそこの効果だけれどもプラスアルファを行えるBがあるならば、敢えてBを選択するのは十分合理的な判断です。
私たちにとって必要なことは、週3日の練習で最適な方法では無く、普段の生活や練習時間で最も効果のあるやり方です。この点を忘れてはいけません。
終わりに
批判的なことを羅列してきましたが、この研究は非常に有益な情報を提供してくれております。
平均VO2max 73mL/kg/minという訓練されたサイクリストにおいても、最大有酸素パワーに匹敵するような高い強度で運動するとさらにレベルアップすることが可能であると示唆しております。
その際、30/15というショートインターバル方式が高い強度を維持するのに有効な選択肢かもしれないと提示しております。
個人的にはリスクを考慮すると普段から積極的に行うというよりも、シーズン前のテーパリング期。もしくは、乳酸緩衝能といった高い強度での運動能力がボトルネックになっている選手に様子を見ながら処方する。或いは時間的制約があり短時間しか練習時間を確保できない選手に適しているかなと考えております。
公正さや再現性を担保するために、研究とはある条件下においての結果です。それを鵜呑みにする訳にはいきません。
今回のポストが、研究の結果を実際に導入する際にどういった点について考えなければならないか気付くきっかけになれば幸いです。
編集後記
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参考文献
Rønnestad BR
Superior performance improvements in elite cyclists following short‐interval vs effort‐matched long‐interval training
Scand J Med Sci Sports.2020 May;30(5):849-857. doi: 10.1111/sms.13627.