今更ですが明けましておめでとうございます。
年末年始のお休みは如何でしたでしょうか。本格的にお仕事や学校が始まり、年末年始の疲れと合わさり体調不良を訴える方が大勢いらっしゃいます。
そんな時に私が所属しているNSCAのジャーナルを読んでいたら免疫力に対するコラムがありました。これは役に立つなと思いましたので、その内容についてご紹介いたします。
全文読みたい方はバックナンバーの読めるNSCAの会員になるか、図書館で取り寄せて貰うかしてください。
このポストで紹介する内容は、清水和弘さんが執筆した下記の文章を基に若干私の私見が入っております。
Strength & Conditioning Journal Japan. Volume 26 Number 1 January/February 2019
免疫力-SIgAが免疫力の大きなカギを握っている-
SIgA(分泌型免疫グロブリン)とは?
免疫とは病気から体を守る機能です。免疫とは第一段階の粘膜免疫と第二段階の全身免疫に大別されます。
粘膜免疫は粘膜において病原体の進入をブロックするバリア機能であり、全身免疫は進入後の病原体を発熱や下痢などで排除する機能です。
発熱や下痢が生じていればすでに体調は悪化しております。従って、粘膜免疫を高めて病原体を体に入れない事が肝要です。そこで重要な役割を担うのがSIgA(分泌型免疫グロブリン)です。
SIgAは唾液、鼻汁、汗、及び乳汁等の分泌液に存在し病原体の粘膜進入の阻止や毒素の中和作用を持っております。このSIgAが低下することによって上気道感染症(いわゆる風邪やインフルエンザ)へのリスクが高まります。
SIgAが低下するシーン
1、高強度運動
高強度の持久性運動(75%VO2max・60分)により低下し、回復には1日を要するようです。また、2時間を超えるフルマラソンでも唾液中のSIgAは低下します。そして、1日経過しても回復しきらないようです。強度の高さや、運動時間が長くなるほど回復に時間がかかると考えられます。
ここからは私見ですが、土日にロングライドに行った場合、月曜はフルレスト。火曜も様子見程度にしておく方が無難でしょう。
2、高地滞在
持久的パフォーマンスを上げるために高地トレーニングを行う方がいます。滞在とトレーニングを標高1200mで行った選手に比べて、トレーニングを1200m、滞在を2500m→3000m→3500mと6日ごとに上昇した場合、唾液中のSIgAが著しく低下したようです。
私見ですが、標高の高い所に住んでいる選手や、高地で合宿を行ったり低圧・低酸素トレーニングを取り入れている方は用心した方がよいでしょう。
3、脱水を伴う減量
1週間ほどで行われる急速減量や3週間ほどで行う比較的緩慢な減量によって体重減少は4%ほどであったが、唾液中のSIgAは低下したそうです。
減量では飲水制限や発汗による脱水、食事制限とともに激しいトレーニングが行われるため体に過剰な負荷が掛かります。
減量によってSIgAの低下に加え、リンパ球の機能低下も確認されることから、減量中の選手は免疫機能が低下しやすく、感染予防やリカバリーに注意を特に払う必要があると言えます。
4、無月経アスリート
競技力を向上させるために無理な体重制限を行い、月経の無い女性選手が散見されます。
無月経の者は正常な月経者に比べて女性ホルモンのエストラジオールが低いことに加え、安静時の唾液SIgAも低く、上気道感染症にかかり易いことが判明しております。
過度な減量は心身共に蝕むという事を選手は勿論、指導者も知っておく必要があります。
5、長距離移動
10時間ほどの航空機移動によって唾液SIgAが低下することが報告されております。また、航空機内は概ね0.8気圧程度で標高2000mに相当し、湿度も20%程と低く乾燥しやすいです。
このような環境はSIgAの低下を招きやすく、乾燥対策としてマスクの着用や適切な水分摂取が求められます。
また、到着後は軽い運動に留めて休養することで、免疫機能の回復に努めるのが望ましいと思われます。
免疫低下の対策
1、病原体を体に入れない
うがい・手洗いの徹底。特に洗い残しの多い箇所は指先や爪の間、指と指の間や母指全体、手の甲であるとされております。
他にもチーム内や家庭内でもタオルの共有や回し飲みを控える。プロや有名選手ならばファンと握手や接触する機会が多いので特に注意が必要です。
2、トレーニング内容の調整
SIgAが低下するシーンで紹介したように高強度のトレーニングを行った際に免疫力は低下します。
余り連続して高強度のトレーニングを行わないように、強度を下げたり持続時間を短くするといった練習計画を練りましょう。
また、一時的な運動応答については、持久性運動よりもレジスタンス運動の方が唾液SIgAを低下させないようです。例えば、最大挙上重量70%で10回5セットのレッグプレス及びベンチプレスでは、唾液SIgAの量はほとんど変動しないという報告があります。
他にも、ヨガやリラクセーション目的の軽運動によって一時的に唾液SIgAが高まるという報告もあります。
私見ですが、ハードなトレーニングの間に短時間で済む中程度の筋トレを入れたり、ヨガといったリラクセーション目的のエクササイズを入れるのもありかもしれません。
3、物理療法
マッサージと鍼刺激は、高強度運動により低下した免疫機能の回復を早める効果がある模様です。
高強度運動後に全身性のマッサージを行うと唾液SIgAの回復が早まったり、鍼刺激(鍼通電刺激・2Hzで30分間)を行うと唾液SIgAの回復を早めることが示唆されております。
私見ですが、トレーニング後に毎回マッサージや鍼治療を行うのは時間的にも経済的にも困難だと思われます。しかし、フォームローラーを用いたセルフマッサージや、自分で出来るお灸などは比較的簡便に行えるので取り入れてみるのも良いと思います。
4、食事・栄養補助食品
ビタミンAはSIgAの構成成分である多量体免疫グロブリン受容体の転写に関わることが報告されており、高強度運動後の唾液SIgAの低下をビタミンAの摂取によって抑制することが示唆されております。
また、ビタミンDは免疫調節に関わり、血中25ヒドロキシビタミンD濃度を45~60ng/mlを目安に高めることで唾液SIgAも高まることが示唆されております。
他にも、乳酸菌による免疫亢進効果が近年注目されております。私見ですが、ヨーグルトやキムチといった乳酸発酵食品を意識的に取り入れてみるのも良いかもしれません。
注意しなければならないのは、Bioavailabilityという観点です。日本だと余り注目されている気がしませんが、口に入れたからといってそれがそのまま体に吸収される訳ではありません。何に由来したモノかによって吸収率は異なります。
サプリメントで足りない分を補うのは理に適った行動だと思いますが、サプリメントで必要量を摂取しているから大丈夫という考えは危険です。あくまで補助に過ぎません。
長々と書いてきましたが、当たり前のことを当たり前に行おうという事に尽きると思います。
しかし、当たり前と言ってもこれら全てを行うのは恐らく無理です。全て出来る訳では無いからやらないではなく、1%でもリスクを減らすために一つでも良いのでチャレンジしてみてください。
このほんのちょっとした努力が明日に繋がると思いますし、強い選手はちょっとの努力を惜しまないと感じます。
参考文献
清水和弘
免疫力-SIgAが免疫力の大きなカギを握っている-
Strength & Conditioning Journal Japan.Volume 26 Number 1 January/February 2019