グリコーゲンの回復という視点から連日高い強度で運動するのはやめておいた方が良いというブログを以前投稿しました。今回はミトコンドリアの機能という点からお話ししてみたいと思います。
皆さんご存知の通りミトコンドリアはATPを産生する重要な器官です。細胞の活動に必要なエネルギーはATPという形で直接的・間接的にミトコンドリアから供給されます。
そして、競技時間が長く且つ速いペースを保つ必要のある持久的スポーツは大量のエネルギーを必要とします。従って、ミトコンドリアの量や機能の高さは競技力に影響いたします。
その重要なミトコンドリアについて、ハードな練習を行うと一時的に機能が低下するという研究を見つけたのでご紹介いたします。
Short-term intensified training temporarily impairs mitochondrial respiratory capacity in elite endurance athletes
概要
・22名のトライアスリート、6名のロードサイクリスト。1名は実験前の怪我で除外。合計27名の男性が対象
・被験者の平均VO2maxは64.9±4.8ml/kg/min
・週に10時間以上の練習を行い、2年以上の競技歴を持つ
・4週間のトレーニング介入
・低~中強度のトレーニングを週に2~4日。午前に高強度、7時間の休憩を挟んで午後に中強度を週に3日。週の平均練習時間は16時間。なお、介入期間の前に4~8週間低強度のトレーニングのみ行う期間を設けたので実験によって強度が増している
結果
様々なモノを計測しているので気になる点だけ
・VO2maxは向上した65.0±4.8→68.7±4.9ml/kg/min
(被験者に記載された平均値は64.9でした。0.1の差は測定誤差なのかそれとも除外された人の影響なのかちょっと分かりません)
・ミトコンドリアの密度を示すマーカーは5~50%増加した
・ミトコンドリアの呼吸量は20%低下した
・オートファジーのマーカーと抗酸化タンパク質が増加した。しかし、アコニターゼは不活性化した。
まとめと私見
平均VO2maxが65ml程度という訓練されたアスリートに対して、よりハードなトレーニングを行った際にどういう影響が出たのかを調べた研究です。
まずオートファジーのマーカーと抗酸化タンパク質が増加しているので、ミトコンドリアが酸化ストレスに曝されており機能が低下したモノを分解・再生産しようとしているは間違いなさそうです。
そして、ミトコンドリアの量は増えたようですが質は低下しております。VO2max自体は向上しているので、この研究に関しては質の低下を量で補えた模様です。しかし、しっかり機能を回復出来ていればさらに高いパフォーマンスを発揮できたかもしれません。
ちなみに最後の高強度からは47~53時間、午後に行う中強度からは38~44時間後に筋生検を行ったそうです。約2日間ではミトコンドリアの機能を回復させるには足りなかったのかなと考えています。
この結果から察するに、レース前にハードなトレーニングを行うならば少なくとも2日間以上は間を空けておいた方が無難でしょう。
また、アコニターゼといってTCA回路(クエン酸回路)や鉄イオン濃度の調整に働く酵素を不活性化するようです。鉄欠乏性貧血は知らぬ間に進行しているものです。エネルギーの問題だけでは無く体を正常に保つという観点からも、追い込む練習はほどほどにしておいた方が良いと言えそうです。
参考文献
D.A.Cardinale
Short-term intensified training temporarily impairs mitochondrial respiratory capacity in elite endurance athletes
J Appl Physiol(1985).2021 Jul 1;131(1):388-400. doi: 10.1152/japplphysiol.00829.2020.