練習と回復は1セットです。どちらかのみでは成り立ちません。真剣に練習をしている選手であれば当然ご存知でしょうし、普段から気にされていると思います。
特に運動後の栄養補給は重要です。練習の効果を最大化するためでもありますし、次の練習で十分なパフォーマンスを発揮するために必要不可欠です。
その中でもグリコーゲンの貯蔵量は持久的パフォーマンスと正の相関関係にあり、注目すべきポイントと言って良いでしょう。
まずはおさらいを。運動することで体内のグリコーゲンは枯渇します。それを回復させるには出来る限り早く糖質を摂取することが望ましいです。
そして、運動直後に糖質を摂取するとグリコーゲンの再合成が通常よりも早まることが知られております。
具体的な例をご案内すると、68%VO2maxで70分間連続運動した後に2分88%VO2maxを6回繰り返した。その直後に2g/kgの糖質を摂取した場合と2時間後に摂取した場合とで比較すると、2時間後に摂取したグループでは4時間後のグリコーゲン蓄積量は45%も遅かったという報告があります。
数値的にはエネルギー補充が出来ているはずだけれども、体は動かないと感じたことはありませんでしょうか。もしくは、消費したエネルギーは同じでも低強度だと毎日出来るけれども高強度を連日行うのは難しいと感じませんでしょうか。
以前のブログでご案内したように速筋繊維と遅筋繊維でグリコーゲンの回復速度は異なります。それである程度の答えになると思いますが、なぜこういった違いが起こるのかはよく分かっておりません。
今回はその理由について説明になりそうな研究を見つけたのでご紹介いたします。こちらです。
Glycogen supercompensation is due to increased number, not size, of glycogen particles in human skeletal muscle
概要
・11名の男性被験者
・75%VO2maxで疲労困憊に至るまで運動した
・運動後、混合食(Mix)、低糖質食(Low)と高糖質食(High)を摂取し筋生検を行った
結果
・Mixに比べて、Highは遅筋繊維においてグリコーゲンの貯蔵量が40%高かった。
・しかし、速筋繊維においてはほとんど差が見られなかった
・また、遅筋繊維における筋原線維間と筋細胞膜下におけるグリコーゲンの粒子数がそれぞれ40%と61%多かった。筋原線維内においては有意差が認められなかった
・Mixに比べて、Lowはグリコーゲンの総貯蔵量が21~23%低かった。
まとめと個人的見解
疲労困憊になるまで運動し、低糖質・通常食・高糖質の食事によって筋グリコーゲンの貯蔵量がどうなったかを比較したものです。
糖質の量が多ければ多いほどグリコーゲンの再合成が高くなりました。ただし、遅筋繊維においてのみ合成速度が上がり、速筋繊維ではグリコーゲンの超回復と呼ばれるものは見られませんでした。
そして、グリコーゲンの粒子を大きくするのではなく、数を増やすという方法を選択していたという内容です。
まず注目するべきはグリコーゲンの超回復と呼ばれるものは遅筋繊維においてのみという点です。より強い力を発揮できる速筋繊維では元の状態に戻るのに時間がかかる模様です。
エネルギー源が枯渇していれば筋肉は動きません。体感的にも高強度の練習を連日行うのは難しいです。それは気合や根性の問題ではなく生理的に致し方ないことだったと言えるでしょう。
従って、体の反応としてそういうモノなので、連日高い強度の練習を行うのは必要な強度を得られない可能性が高く避けた方が理に適っていると考えられます。
次に、グリコーゲンの粒子を大きくするのではなく、数を増やすことで対応している点も面白いなと感じます。
詳しくは私も分かりませんが、貯蔵効率としては粒子のサイズを大きくした方が有利なようです。しかし、小さい粒子の方が燃焼させ易いそうです。
従って、エネルギー不足の状態を素早く改善するには小さいままで数を増やす方が適している。そのために、貯蔵効率の悪い方法を敢えて選択していると考えられているようです。人間の体はよく出来ているなとつくづく感心致します。
生理学に興味のある方を除けば、上記の内容を知ってもそんなに驚くことも無いと思われます。「言われなくても体感的に分かるよ」といった所ではないでしょうか。
しかし、何となくそう感じているのと、仕組みを理解して説明出来るのでは大きな差があります。
例えば、高強度の練習を続けてはいけない理由はなぜ?練習後にお腹が減っていなくても食べなければならない理由は何?といった問いに対して、今回のような知識があれば改めて考えたり検証する手間をキャンセルできます。
他にも、ミトコンドリアの生合成に関与するAMPKを活性化させるために、どうしたらグリコーゲンを手っ取り早く枯渇させられるかといった時に今回の知見を応用することも可能です。
知識はそれ単体で独立しているものではなく、様々なモノと関連しております。なんとなくで終わらせずに、なぜそうなるのかといった理屈や考え方を学ぶきっかけに今回のポストがなれば幸いです。
編集後記
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参考文献
Ivy J L
Muscle glycogen synthesis after exercise: effect of time of carbohydrate ingestion
J Appl Physiol (1985).1988 Apr;64(4):1480-5. doi: 10.1152/jappl.1988.64.4.1480.
Jensen Rasmus
Glycogen supercompensation is due to increased number, not size, of glycogen particles in human skeletal muscle
EXP Physiol.2021 May;106(5):1272-1284. doi: 10.1113/EP089317. Epub 2021 Mar 26.
Burke Louise M
Postexercise muscle glycogen resynthesis in humans
J Appl Physiol(1985).2017 May 1;122(5):1055-1067.