自転車ロード選手向けのテストプロトコルと注意点について

トレーニング

前回、維持できる能力を測定する新しい方法としてEmpirical Cycling FTP Testsというテスト形式をご案内いたしました。まだご覧になっていらっしゃらなければコチラからお読みください。

パワーを利用したトレーニングも徐々に進化しているのです。~Empirical Cycling FTP Tests について~

 

ロードレースをメインとされている選手向けのテストプロトコルについて

 


自転車ロードレースには登りもあれば下りもあります。そして、ライバルを振るいに掛けるためにアタックが繰り返され、FTPだけが高くても勝利することは困難です。

 

従って、より総合的な能力が必要とされます。そういった自転車ロードレースを主戦場とする選手向けのテストプロトコルについてお話しいたします。 ネタ元はコチラの動画です。

 

Coaching with WKO4 : Testing Protocols Explained

 

この動画によると、オフが終わり次のシーズンに向けて準備する段階で基準となる5秒・1分・5分・20分のテストを行う。オフシーズン中は月に1回を目安にテストを行い、シーズン中は特にスケジュールを組まず必要に応じてトレーニングに組み込むという形を提案しております。具体的なやり方は下記の通りです。

  

 

約1週間掛けて各MMPを測定いたします。そこで測定されたMMPを基に負荷を設定するといった具合です。

 

少し面白いと感じたのはDay2で、脚質に応じて長さが異なる点です。スプリンターやパーシューターだと短い時間のMMPと実際に維持できるパワーとの乖離が激しいからなるべく長い時間行う。それに対して、TTerの場合はそれほど落ちないであろうから20分という短い時間で十分と考えているのかなと思われます。

 

シーズン中もしくは時間が取れない場合はどうするか?

 

シーズン中はレースが続きます。テストのために丸々1週間使ってしまうのはスケジュール的に厳しいです。そういう場合はショート(1~40秒)、ミディアム(30秒~15分)、ロング(15分~60分)と3つに分け、各区分におけるMMPの低い所をテストしようと提案しております。具体的には下記のグラフをご覧ください。

 

 

赤い線(PD curve)が予測されるベスト。黄色い点線が実測値です。この場合はグラフの赤い線を下回っている5秒、40秒、40分をテストし、PD curveを適切な状態に保つようにしたいのだろうと思われます。

 

そして、PD curveが適切な状態に保たれてさえいれば、各MMPのテストを行わなくとも十分基準足り得ると考えているのだと思われます。

 

細かく強度を設定する理由は?

 

それではなぜこのように細かくMMPを測定し強度を設定するかというと、FTPを超えるパワーは選手の能力によって大きく異なるからです。具体的には下記のグラフが参考になると思います。

 

 

1000秒くらいだとどの選手もほぼ収束するのに対して、短時間だと±100%FTPくらいの差があります。従って、各時間のMMPから設定する方がより適切な負荷になり得ると考える事が出来ます。

 

なお基準とする時間は異なりますが、ヨーロッパの負荷設定はMMPを基準にしているのかなと伊藤コーチがご自身のブログに記述されております。示唆に富む内容なので宜しければ併せてご参考ください。

 

Training Peaks (トレーニングピークス)の使い方 ( PP編 )

 

ヨーロッパでもアメリカでも研究の結果として似たような所に落ち着き始めたと感じられて面白い現象です。

 

私個人がクライアントの方の負荷を設定する時は、初めはベーシックにFTPを基準にいたします。ある程度の期間データが溜まると徐々にMMPを基準とした負荷設定を取り入れて行きます。

 

例えば「直近90日間のベスト90%以上で」といった具合です。行う内容や前後のメニューによって日数や負荷は適宜調整するので、これが正しいやり方というのではなくあくまで1例に過ぎません。その点をご了承願います。

 

従来のFTPテストについて

 

以上見てきたように、個人の能力を細かくテストしそれに合わせて強度を設定するといったやり方をご案内いたしました。徐々にこういったやり方が主流になって行くのだろうと思います。

 

従来通りの5分と20分の全力走を行うやり方は時代遅れのモノかと問われれば、そんなことは無いと考えております。パっと思い浮かぶだけでも2つ利点があります。

 

1、1日で済む 

Empirical Cycling FTP Testsにせよ、今回の各MMPを計測するテストにせよ完了するまでに複数日掛かります。従って、トレーニングを始めたばかりの方が当面の強度を設定したい場合には適しておりません。1日でテストが完了するのは大きなメリットです。

 

また、有酸素能力の上限である5分に、維持できるパワーをある程度測れる20分といった点も見逃せません。有酸素能力を把握する当座の指標としては十分意味を持ちます。

 

2、短時間の全力を測定するには技術と経験が必要

5分や20分、又はもっと長い時間になれば多少ミスをしても取り返しがつきます。それに対して5秒や1分といった全力走の場合ワンミスで結果が全く変わります。

 

ギアの選択や、スプリントを開始するケイデンスが少しズレただけで数十ワットは当たり前。下手をすれば100ワット単位で結果が変わります。不慣れな選手がテストを行ったとしても、その選手の能力を正しく測定出来ているか疑問が残ります。

 

その結果を基に強度を設定すると、低すぎる強度でトレーニングを行う危険性があります。従って、訓練を積んでいる上級者向けのやり方と言って良いでしょう。

 

まとめ

WKO5の雑感から始まり、テストプロトコルを2つご案内いたしました。研究が進み解析ソフトの向上により今まで見えていなかったものが見えるようになりました。

 

それらを基に、徐々に個人の能力に応じてトレーニングを細かく設定するようになっていくのだろうなと思われます。しかし、新しいからといって従来のやり方よりも全てにおいて優れているという訳ではありません。

 

それぞれ一長一短あり、状況に応じて使い分ける必要があります。自分自身の能力や使える労力を鑑みて適切な方法を選択してください。一つ確かな事は、何もかも網羅する完璧なやり方なんてものは絶対に存在しません。自分にとってベターなやり方を探す一助になれば幸いです。

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