コーチングを受け持っているクライアントの方には10~20秒の全力スプリントや1分全力といった非常に高い強度のトレーニングをやってもらっています。勿論、目的や競技力、使える練習時間によって割合は異なりますが例外はありません。
ヒルクライムやTTをメインとした方の多くは困惑いたしますし、ロードレースをメインとされている方からももっと重要な事があるのでは?という声を頂いたりします。
曰く「レースでスプリントなんてやらないから」
確かに、ゴール前スプリントをする機会に恵まれる方は限られていますし、ヒルクライムやTTならばそういった場面が存在すらしなかったりします。しかし、レースで行わないからといってやらなくて良いのか?というのが本日のテーマです。
結論から言えばやるべきであると考えています。
その根拠としてASR(Anaerobic Speed Reserve)という考え方をご紹介いたします。
グラフをご覧ください。
用語説明
MSS(最大走速度)
vVO2max(VO2maxに達する走速度)
HIT running speed(高強度インターバルトレーニング時の走速度)
このグラフを説明すると同じvVO2maxのアスリートAとBがいます。ただしMSSがAは29㎞/h、Bは33㎞/hです。これらvVO2maxとMSSの差をASRと言います。
ASRに差がある二人が同じ21.5㎞/hでHITを行った。vVO2maxを基準にすると同じだけ速度を増している訳ですが(+3.5km/h)、MSSを基準にして考えるとAは32%の速度増加。Bは23%の速度増加です。
つまり、Bに比べてMSSが低いAの方が速度を増す割合が高く相対的にキツイという事になります。従って、ASRに余裕があるほど速度の変化に強いと言えます。
ローラー台の上で勝負をしているのならば、FTPの高さでレースの順位が決まるかもしれません。しかし、勾配や風向きの変化がありますし、集団で走るならばペースの上げ下げは必ず存在します。
そして、レベルが高くなればなるほどライバルをふるいにかけるためにアタックが掛かります。ペースの上げ下げを相対的に楽にし、速いペースを維持するためにも最大走速度を押し上げるような高い強度のトレーニングを取り入れた方が良いと思います。
ただし、ヒルクライムやTTならばVO2maxレベルまでのペース変化であり、VO2maxをメインとするトレーニングの方がより実践的ではないかという疑問があるかもしれません。
確かに、VO2maxを向上させるにはVO2max相当のトレーニングを行うのが有効である事を支持する研究が多いです。しかし、30秒175%PP(最大有酸素パワー)×12と4分85%PP×8が同程度VO2maxを向上させるというSteptoの研究もあります。
VO2maxを同程度向上させる可能性があるならば、トレーニングにバリエーションを増すことによりマンネリ化を防ぎ、無酸素領域の能力向上も見込めるトレーニングを行うのは合理的判断と考えます。それに、いざゴール前スプリントという状況になった時に、普段やっていないから駄目でしたというのは余りに勿体無いです。
こういった考え方もあるのだと知っておいていただきたいと思います。
具体的なメニューは、ハンターの動画を中田コーチが紹介して下さっているので1例としてご参考下さい。
また、伊藤コーチがご自身のブログでVO2maxレベルでのトレーニングについて考えをまとめていらっしゃるので併せてご参考頂ければと思います。
(注)伊藤さんの旧HPが閉鎖されリンクが切れている模様です。記事が復活したら改めてリンクを張り直します。
参考文献
Martin Buchheit・Paul B. Laursen
High-Intensity Interval Training , Solutions to the Programming Puzzle
Prat 1 : Cardiopulmonary Emphasis
Sports Med 2013 May;43(5):313-38
Stepto NK
Effects of different interval-training programs on cycling time-trial performance.
Med Sci Sports Exerc.1999 May;31(5):736-41