フィジカルとスキルは車の両輪です

前回のブログに続きましてS&Cコーチっぽい投稿です。
前回フィジカルあってのスキルと申し上げた訳ですが、科学的知見を基にもう少し詳しくお話ししたいと思います。その為に、まずは河森博士のこちらのブログをご覧下さい。この投稿で取り扱われている内容に少しだけ自分なりの考えを付け加えられたらと思っております。

河森博士のブログに詳しく書かれていますがさらっとご案内いたします。取り扱う論文はこちらです。

・Effects of muscle strengthening on vertical jump height: a simulation study.

概要

・6名のバレーボール選手(オランダ Division of Honour)のデータを基にコンピューターモデルを作成した。詳しくは下記図を参照。

実験A 

このコンピューターモデルを使用してジャンプ高が最大になるタイミングを求めそれを実験の基準にした。
現時点でもっとも適切な体の使い方を学習した状態と言えると思います。

実験B

実験Aで求められた状態から各種筋群の数値を向上させてジャンプ高がどうなったか測定した。
大腿四頭筋(Knee extensors)のみ5%、10%、20%向上させた場合は
-0.017m、-0.065m、-0.090mとジャンプ高が低下した。
全ての筋群を5%、10%、20%向上させた場合は-0.001m、-0.033m、-0.020mとジャンプ高が低下した。

筋力を向上させただけではジャンプ高が低下してしまいました。単に筋トレをして筋力を増しただけではパフォーマンスが落ちてしまう可能性を示唆しております。そして、全身を鍛えるよりも一部位のみを鍛えた方が低下率は高いようです。

実験C

実験Bで求めたデータを基に、実験Aのようにジャンプ高が最大になるタイミングを求め再度測定したところ
大腿四頭筋を向上させたモデルは+0.008m、+0.012m、+0.030mとジャンプ高が向上した。
全ての筋群を向上させたモデルは+0.019m、+0.039m、+0.078mとジャンプ高が向上した。

詳しくは下記の図をご覧ください。

これらの結果は、単に筋力を向上させるだけではパフォーマンスを向上させることは出来ない。しかし、筋力を向上させ、それに適した身体の使い方を学べば今よりもパフォーマンスを向上させる事が可能であると示唆しております。

この実験から

・筋力を向上させるだけではパフォーマンスを向上させることは出来ない。場合によっては低下を招いてしまうかもしれない。

・一部位だけを鍛えるのは余り有効ではなく、全身を鍛える方が良い。

・筋力を向上させた後に、それに適した身体の使い方を学べばパフォーマンスの向上を期待できる。

という事が言えそうです。

私がこの論文で特に気になるのは、ある時点では最適な身体の使い方をしていたにも関わらず、各種筋力が上がった状態ではジャンプ高が下がってしまっている点です。

この事例から、これを習得すれば事足りるという究極のスキルがこの世の何処かに存在するのではなく、ある時点におけるその人にとってのベストなやり方があるだけと解釈出来ます。

今よりも成長を望むのならば、身体を強くするトレーニングと身体を上手く使えるようになるためのトレーニングを常に同時進行で実施しなければならない事が分かります。前回も申し上げたように、身体を強くするのに最も効率が良いのは筋トレで、身体を上手く使えるようになるのに最も効率が良いのは競技練習です。

従って、最も効率の良いこの二つをガシガシやるのが最善手だと考えております。
中には競技練習を減らすのを恐れる方がいらっしゃると思います。しかし、低強度の持久的トレーニングを削りその時間を筋トレに充てた方が最大有酸素パワー・血中乳酸濃度4mmol時のパワー・40分のタイムトライアル時のパワー全てでパフォーマンスの向上を期待できるというRønnestadの報告もあります。

競技練習を一所懸命に行っていても頭打ちを感じていらっしゃるならば、来シーズンのためにこのオフを使って身体を強くするための筋トレを導入する事を強くお勧めいたします。

編集後記

丁度この記事をまとめた所で、PCG-Japanの同僚でありCycle Studio Iを運営されている伊藤コーチがフィッティングを題材に同じようなブログを投稿されてました。併せてお読みいただけるとパフォーマンスを向上させるには何をすれば良いのか考えるきっかけになると思います。
(注)伊藤さんの旧HPが閉鎖されリンクが切れている模様です。記事が復活したら改めてリンクを張り直します。

フィッティングをすることでパフォーマンスは上がるのか?

参考文献

Bobbert MF

Effects of muscle strengthening on vertical jump height: a simulation study.

Med Sci Sports Exerc 1994 Aug;26(8):1012-20

B. R. Rønnestad

Strength training improves performance and pedaling characteristics in elite cyclists

Scand J Med Sci Sports 2015: 25: e89–e98

参考ブログ

S&Cつれづれ

S&Cつれづれ|アスリートが勝つためのトレーニング(=S&C、ストレングス&コンディショニング)について書いています。
アスリートが勝つためのトレーニング(=S&C、ストレングス&コンディショニング)についてのブログです。博士号を持つS&Cコーチが、科学的根拠をベースにしつつ、現場での経験を組み合わせた情報を発信しています。
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