以前のポストでレストが大事という話をいたしました。トレーニングの効果を十全に受け取るためには、トレーニングと同じようにレストにも気を配る必要があります。
なぜならば、自身の回復力を上回るトレーニングはマイナスでしかなく、回復力が練習量の上限を決定するからです。
今回は重要だと分かっていても疎かになりがちな睡眠について科学的知見を基に述べてみたいと思います。
ストレッチ、マッサージ、コンプレッションウェアやサプリメント等、回復に役立つと謳った方法は多々ありますが、睡眠以上に有効な手段を知りません。しかし、ただ大事と言っても説得力が無いので根拠を示していきたいと思います。
パフォーマンスに与える影響について
まずはコチラの論文
The Effects of Sleep Extension on the Athletic Performance of Collegiate Basketball Players
バスケットボール選手に対して基準となる睡眠時間を2~4週間経験してから、5~7週間睡眠時間が10時間になるように延長した結果が下記の通りです。
282feetスプリント、フリースロー、3ポイントシュート、POMSを利用した精神状態全てにおいて有意にプラスです。逆に言えば、睡眠が不足しているとパフォーマンスに悪影響を与える可能性を示唆しています。
睡眠時間の確保によってパフォーマンスが向上した。回復が促進されトレーニングの効果をより多く享受できた。睡眠時間をしっかり取れるゆとりある生活が精神状態に良い影響を与えたといった可能性が示唆されています。
しかしながら、実験期間中の5~7週間のトレーニングで競技力が向上した影響も十分考えられます。睡眠の多寡だけでここまで影響があるとは言えません。この点においては注意が必要です。
代謝に与える影響について
次はコチラの論文
Impact of sleep debt on metabolic and endocrine function
11名の男性被験者に対し6日間一晩辺り睡眠を4時間に制限し、その後12時間寝かせることを許可した結果、睡眠不足状態では耐糖能が低下しコルチゾール及び交感神経の活性化が確認されました。
耐糖能の低下は糖尿病といったリスクを負いますし、コルチゾールの量が増加すれば免疫機能等の低下をもたらす可能性が考えられます。交感神経が過剰に亢進すれば自律神経への悪影響が懸念されます。
睡眠不足によって糖質の代謝と内分泌機能に対して有害な影響を与えると考えられます。わずか6夜の睡眠不足でここまで影響することを示唆しています。
睡眠不足が障害のリスクを上げる可能性について
次はコチラの論文
Chronic lack of sleep is associated with increased sports injuries in adolescent athletes
12~18歳の男女アスリート及び保護者に対して睡眠時間と障害についてアンケート調査を行った報告。一晩の睡眠時間が8時間以上の選手に対して、8時間未満の選手は障害の発生率が1.7倍でした。
あくまでオンライン上でのアンケート調査であり因果関係は分かりません。報告と実際の睡眠時間にズレが生じている可能性は十分ありえますし、睡眠時間を8時間以上に延ばしたら障害の発生率が低くなるとも言えません。
しかし、統計上有意に差があるのならばそのリスクを避けておくのは賢い選択だと思われます。少なくとも睡眠時間が少ない方が有効であるという報告がなされない限りはなるべく増やす努力をするべきでしょう。
昼寝のススメ
重要だと分かっても1日に8時間や10時間寝る時間を確保できないという声が聞こえてきそうです。その場合は昼寝をお勧めします。
The role of a short post-lunch nap in improving cognitive, motor, and sprint performance in participants with partial sleep deprivation
上記の論文によれば、4時間睡眠の人でも30分昼寝(仮眠)をとれば、少なくとも2mと20mスプリントや短時間の記憶力、眠気に対して有効のようです。
寝る間を惜しんで〇〇をするというのが美談として語られがちですが、スポーツの世界では当て嵌まりません。しっかり食べて寝る。その上でハードにトレーニングをするように心がけて下さい。頑張るために休む時間を確保いたしましょう。
参考文献
Cheri D.Mah
The Effects of Sleep Extension on the Athletic Performance of Collegiate Basketball Players
Sleep.2011 Jul 1; 34(7): 943–950.
K Spiegel
Impact of sleep debt on metabolic and endocrine function
Lancet.1999 Oct 23;354(9188):1435-9. doi: 10.1016/S0140-6736(99)01376-8.
Matthew D Milewski
Chronic lack of sleep is associated with increased sports injuries in adolescent athletes
J Pediatr Orthop.2014 Mar;34(2):129-33. doi: 10.1097/BPO.0000000000000151.
Jim Waterhouse
The role of a short post-lunch nap in improving cognitive, motor, and sprint performance in participants with partial sleep deprivation
Journal of Sports Sciences.25(14):1557-66 · January 2008 DOI: 10.1080/02640410701244983