久方ぶりの更新です。ポストを楽しみにしてくださっていた方々には申し訳ありません。もうちょっと何とかしたいと思ってはおります…
さて先日、下記のようなツイートを致しました。
凄く大事なことを一つ。
— 南部 博昭(Hiroaki Nanbu) (@Hiroaki_Nanbu) October 20, 2021
その人が使っている言葉の意味をきちんと確認してください。
私のタイムラインにPolarized Training(以下POL)についての話しが流れて来て、それに対して幾つか呟いたものの一つです。POLについてはこのブログでも4年前に取り扱っており、徐々に周知されてきたのかなと思うと感慨深いです。
しかし、誤解されたまま広まっている部分もあるなと感じております。丁度良い機会なので以前ポストしたものよりも細かい点について記しておこうかなと思いしたためました。
POLについて
まずはPOLについておさらいしておきます。私の知る限りではStephen Seiler氏が最初に提唱したものです。
どういったものかというと、持久的スポーツにおけるトップ選手の内訳を見ると、低強度が全体の80%を占め、残りの20%は中~高強度だったというものです。
(もっと細かく分類すると低強度が75%。中強度が5~10%。高強度が15-20%とかありますが80:20と覚えて大丈夫だと思います)
これだけだと偶然そうだっただけという可能性がありましたが、実際に80:20の内訳での研究が行われ有効であったという報告が多数なされております。それが現在広まっているという状況です。
言葉の意味を確認しよう
まず最初に問題になってくるのは言葉の意味です。恐らく、私のブログをご覧の方はサイクリストでパワーメーターを利用してトレーニングを行っていると思われます。
パワーを利用してトレーニングを行っていると、「高強度」とはZONE5以上の運動強度を指している場合が多いと思います。しかし、研究の世界では異なります。
POLについてStögglの有名な研究があります。その中のグラフをご覧ください。
注意して欲しいのはグラフ右下の小さい文字です。この研究における高強度とは最大心拍数の90%以上を意味しております。また低強度とは血中乳酸濃度が2mmol以下です。
鍛錬度やコンディションによりますが最大心拍数の90%にはFTP走くらいで達します。ZONE5よりも下の領域を含みます。従って、週に練習時間を10時間確保できる。それをPOLにするとZONE5以上を2時間やらなければならないと認識されているのならば誤りです。
そして低強度にも注意が必要です。低強度というとアクティブリカバリーとかせいぜいエンデュランス程度と認識している方が多いと思います。
しかしながら、血中乳酸濃度2mmolは訓練されている選手ならば心拍数で言うと80%くらいまで耐えられたりします。テンポ走くらいまで含まれてもおかしくありません。
そう仮定すると高強度は必要以上に高い強度と認識し、低強度は低すぎる強度と誤認しているかもしれません。
上記のように同じ言葉を使っていても意味する所は全く別の可能性があります。自分の使っている言葉と相手の言葉が同じ意味で用いられているか確認する方が良いでしょう。
背景を確認しよう
次に注意しなければならないのは量の数え方です。先ほどと同じくパワーを利用していると各ZONEの滞留時間を見て何をどれだけやったか確認されていると思います。1週間でZONE4が〇時間。ZONE5以上が△分といった具合です。
それに対してStögglの研究における高強度のプロトコルは下記の通りです。
All of the HIIT sessions included a 20 min warm-up at 75%of HRpeak,4×4 min at 90–95% of HRpeak with 3 min activerecovery and a 15 min cool-down at 75% HRpeak
全ての高強度セッションは最大心拍数75%で20分のアップを含む。そして4×4分最大心拍数90-95%。レストは3分最大心拍数75%。15分最大心拍数75%のクールダウンを行う。
実際に高い強度で運動している時間は16分です。アクティブレストを含めても28分間です。両方含めてもせいぜい30分くらいですが、これを約1時間の高強度練習と勘定いたします。
どういうことだと思われる方がいらっしゃると思います。しかしながら、高強度を行ったのならばアップとダウン、レストを含めた合計時間を高強度の練習であるとこの研究では捉えておりますし、慣習としてそういうものです。
このHIITセッションを週2回、リカバリー週は1回です。2週ON/1週OFFのサイクルなので9週間における高い強度で運動している時間は実質7時間30分くらいです。低強度の際に6~8回の全力スプリントを行っているそうなのでもう少し多くなるかもしれませんが、それでも8時間を超えるくらいでしょう。
Stögglの研究におけるPOLの総練習時間は104時間±20時間なので、実際に高い強度で運動している時間は10%行くかなどうかなといった所です。
これを聞くと唖然とするかもしれません。しかし、練習時間をどう計算するかといった背景の差です。言葉の意味と同じく差を理解しないと認識を誤ります。
そして案外楽と感じる方がいらっしゃると思います。しかし、9週間で104時間。平均すると11時間くらいですが2週ON/1週OFFのサイクルです。ONの時には12時間以上。13時間くらいは練習していることになります。
平日に2~3時間のエンデュランス/テンポを連日行いながら28分間の高強度を行うのは想像よりもずっとキツイと思われます。
私見
最後に個人的な見解を幾つか述べて終わりにしたいと思います。
結論から申し上げると、週に12時間以上コンスタントに練習できる人ならばPOLはお勧め出来る。10時間未満の選手ならば余り気にしない方が良いといった所です。
最初に申し上げた通りトップクラスの選手を対象としたら高強度と低強度の両極端になったという話しです。世界のトップ選手となると週に15~20時間くらい練習するのはザラです。週10時間未満の方に当て嵌めても同じくらいの効果をもたらすかというとどうかなと感じます。(ティポー・ピノは年に940時間とか自転車に乗っています)
それではなぜこういった両極端な練習になるのか?高強度と低強度では持久的パフォーマンスの向上をもたらす機序も部位も異なります。
能力を十全に発揮するためには両方必要である。そして、高強度の練習を行うと回復に2~3日かかるので週に2回くらいが限界。それ以外に練習するならば低強度になってしまう。レベルが高くなればなるほど必要な量が増えていく。結果として両極端になってしまうという理屈だろうと考えております。
必要な量を確保できないならば強度を上げざるを得ず中強度の量が増えていく。ほとんどの方はこちらに当て嵌まると思われます。
どうしても80:20といった具体的な数値に目が行きがちではあります。しかし、なぜそうなるのかといった理屈を理解して最適な方法を探っていただけるとよろしいかと思います。このポストが参考になれば幸いです。
編集後記
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参考文献
Stöggl T
Polarized training has greater impact on key endurance variables than threshold, high intensity, or high volume training
Front Physiol, 2014 Feb 4;5:33.
参考ツイッターアカウント
HIIT Science