ツール・ド・おきなわ対策はお済みですか?~暑熱馴化訓練~

トレーニング

いよいよ10月に入りシーズンの残りもわずかになりました。
クライアントの方もそうですし、自転車仲間も来月の沖縄に向けて最後の追い込みを掛けているところです。皆さん本番に向けて長い距離を走り込んだり、レースを模したインターバル等をやっていらっしゃると思います。

様々な対策がある中で、やった方が良いと分かっちゃいるけれどもどうしたら良いか分からない「暑さ」について幾つか研究を紹介しながらまとめてみたいと思います。

一口に「暑さ」対策と言っても二通りあります。
一つは対症療法とでも言うべきもの。もう一つは適応です。前者は水を飲むとか電解質の多いものを摂取する。後はプレクーリングとしてアイスベストや冷水に浸かる等があります。そちらは置いておいて、後者の適応についてお話しします。

・暑熱環境の影響

まず「暑さ」がパフォーマンスに悪影響を及ぼすことは、皆さん体感として理解されていらっしゃると思います。具体的にどれくらい影響するかと言えば、Lorenzoの研究によると暑熱順化している群とコントロール群でVO2max、LT、1時間タイムトライアルで5~8%程度影響するそうです。
詳しくは下記のグラフをご覧ください。

・暑熱順化訓練の方法

それでは「暑さ」対策にはどうすれば良いか?私が知らないだけかもしれませんが現時点でガイドライン等は無く、個別の報告があるに留まるようです。

その中でもNielsenの研究によると8~12日間45~51分40~50%VO2max、35度、湿度85%のエクササイズで暑熱順化の効果が見られたようです。ハンター・コーガン式のパワーゾーンに変換すると大体エンデュランスからテンポ走でしょうか。

(他にも60~90分50~60%VO2max、40度、湿度20%。30~35分70~75%VO2max、気温40度、湿度20%これら全てで暑熱順化の効果あり)

さて、強度に関してはエンデュランスからテンポ位で良いとして、1時間近くもやらなければならないかというとそうでも無さそうです。暑熱順化には核心温(深部体温)の高さが重要なので、事前にトレーニングを実施し体を十分温めた場合は時間の短縮が期待出来そうです。

・訓練の実施期間

次にどれくらいの期間行えば良いか?
同じくNielsenの研究から下記のグラフをご覧ください。
暑熱馴化訓練を実施した日数と運動の継続時間を示したグラフです。

日数が増えれば増えるほど運動の継続時間が延長しております。どこかで頭打ちにはなるでしょうが、なるべくならば多く実施した方が良いと言えます。そして、1回でも2回でもやらないよりかはやった方が良さそうです。

・順化効果の消失

極端に涼しい環境で長時間過ごし続けたり、トレーニングを長時間中断したりする事がなければ、一度獲得された順化の効果は短時間(1週間以内)では消失しないと考えられています。しかし、トレーニング間隔を3日以上連続して空けない方が良いようです。

・提言

以上を踏まえて実施可能なレベルにして提案すると次のようになります。

1、2週間位はやりましょう。なるべく多い方が望ましいですが、1回でも2回でもやらないよりかはやった方が有効。

2、涼しい所で普段通りハードなトレーニングを行う。ローラーならば扇風機やクーラーを使う。

3、2が終わって(帰宅して)から部屋を閉め切って20~30分位ローラーを回す。

4、強度はエンデュランスからテンポが目安。

5、暑さが足りなければ一枚羽織ったり暖房を付けて調整。

6、疲労困憊にならないように強度・時間は適宜調整する。(トレーニングに悪影響を及ぼすほどやればそちらの方が問題)

7、ローラーが使えない環境の方は、ウインドブレーカーを持って行ってメインのトレーニングが終わったらすぐに着て暑い状態を作るといった工夫をする。

8、3日以上連続して間隔を空けずに実施する。

最後のまとめに関しては私の個人的な経験則が多分に含まれますので、適宜調整して頂きたいと思います。どうしても暑熱環境を作り出して運動するのが困難な場合は、サウナ等も利用すると良いでしょう。

ただし、Bain & Jayの研究によると暑い環境にいるだけでは運動能力の向上が見られなかったという報告があるので、なるべくならば運動を伴った方が良いでしょう。沖縄は11月でも最高気温が30度近くになります。こういう対策もあるよと覚えておいて頂ければ幸いです。

参考文献

Lorenzo

Heat acclimation improves exercise performance

J Appl Physiol(1985).2010 Oct;109(4):1140-1147

Nielsen

Heat acclimation–mechanisms of adaptation to exercise in the heat.

Int J Sports Med.1998 Jun;19 Suppl 2:S154-6

Nielsen

Human circulatory and thermoregulatory adaptations with heat acclimation and exercise in a hot, dry environment.

J Physiol.1993 Jan;460:467-485

Bain & Jay

Does summer in a humid continental climate elicit an acclimatization of human thermoregulatory responses?

Eur J Appl Physiol.2011 Jun;111(6):1197-205

競技者のための暑熱対策ガイドブック

独立行政法人日本スポーツ振興センター 国立スポーツ科学センター

タイトルとURLをコピーしました