いよいよ2020年の年の瀬です。1年お付き合いいただきありがとうございました。来年度もよろしくお願いいたします。
今年は新型コロナウィルスの影響で、誰も経験したことが無いようなシーズンになってしまいました。恐らくほとんどの方が不本意なシーズンを送る結果になってしまったと思います。そして、来年は多少なりともマシになることを願って準備されていると思います。
例年に比べると忘年会や新年会といった会食の機会が減っているでしょうが、それでも年末年始のこの時期は飲食の量が増え体重も増加傾向です。オフだしまだ大丈夫だろうと食欲に任せシーズン前に慌てて減量をする方が散見されます。
率直に申し上げて急激な減量はお勧めできませんし、皆様も頭では分かっていると思われます。
過去のブログで減量する際のポイントについて触れておりますが、急激な減量によるリスクは詳しく記述していなかったので今回述べてみたいと思います。レース当日の体重が同じでも意味が全く異なるのを理解していれば、節制も少しはやり易いのではないかと思われます。
急激な減量とは?
様々な減量方法がありますがそもそも急激な減量とは何を指すのでしょうか。それらは一時的な食事や水分制限、トレーニング量の増加、発汗を促すエクササイズ等々。極端な方法では極度の食事制限、サウナやウェットスーツの着用で汗を出す、唾を吐く、下剤や利尿剤の服用、嘔吐等を用いて短期間に体重を減らすことを指します。
これらによってもたらされる体重の減少は、主に体水分量や除脂肪量であり体脂肪ではありません。このような減量は健康上のリスクだけではなく、間欠的な無酸素運動能力や持久的能力に短期的な障害を引き起こす可能性を高めます。
また筋グリコーゲンの貯蔵量も減少し、エネルギーの産生に用いられるグリコーゲンが制限されるため、試合までに回復しきれ無ければパフォーマンスの低下を招きます。
どの程度パフォーマンスを低下させるか
Timpmann(2008)が17名の男性格闘技選手に対して次のような研究を報告しております。
選手は各々のやり方で3日以内に5.1%(±1.1%)減量し、膝伸展のピークトルク及び筋持久力のテストを行った。
その結果、ピークトルクは減少したが体重比におけるピークトルクに有意差は無かった。
しかしながら、3分間の最大下運動や最大努力時、総仕事量においては有意に低下した。そして、体重比に換算しても低下している。
ピークトルクに関しては影響が無いとしても、3分間といった間欠的な運動においてマイナスの効果を示唆しています。
その理由についてはTarnopolsky(1996)の研究が参考になります。Tarnopolskyはレスリング選手に対する研究において、5%の急激な減量後に54%もの筋グリコーゲン濃度の低下を報告しております。
筋グリコーゲンの貯蔵量が一定レベルを下回ると、脂肪といった他のエネルギー源が存在しても筋の活動は制限されます。
急激な減量によって体水分量やグリコーゲンの枯渇といった体脂肪以外の要因で体重を落とすと、間欠的な運動能力の低下が考えられます。体重が落ちたメリットよりもデメリットが上回る可能性は十分にあります。
まとめ
・極端な食事制限やサウナ、下剤の利用といった何らかの方法で短期間に体重を落とすことを急激な減量と呼ぶ
・5%以上の急激な減量による体重の減少は、体水分量の減少やグリコーゲンの枯渇といった体脂肪以外の要因によってもたらされる
・急激な減量を行うと間欠的な運動能力に悪影響が起こり得る
・従って、軽い食事制限や運動量の増加による緩やかな減量が望ましい
自転車競技には登りが付きものです。体重制限こそありませんが、基本的には軽い方が有利になり易い競技ではあります。特にヒルクライムレースが盛んな日本においては軽さが正義になりがちです。
実際問題、減量によって競技成績の向上を経験された方も多くいらっしゃると思います。その成功体験から「次はもっと軽く!」と考えてしまうのも無理からぬことです。
しかしながら、競技成績を求めるがゆえに逆にパフォーマンスを落とす結果になりかねませんし、今回は触れておりませんが腎不全や摂食障害を引き起こしたりと生涯に渡って被害を被りかねません。
大きなリスクを背負っていることを自覚しレースに向けて準備なさってください。年末年始と言えど暴飲暴食は控えめにしておきましょう。
緩やかに減量するためにどうすべきかは過去のブログで詳しく述べておりますので併せてご覧いただけると幸いです。
皆様にとって来シーズンが良きものになることを願っております。
参考文献
Timpmann S
Acute Effects of Self-Selected Regimen of Rapid Body Mass Loss in Combat Sports Athletes
J Sports Sci Med.2008 Jun;7(2):210-217
Tarnopolsky MA
Effects of rapid weight loss and wrestling on muscle glycogen concentration
Clin J Sports Med.1996 Apr;6(2):78-84