生理学的見地から持久的トレーニングの適応を考えてみる~低強度では何に注意するべきか~

トレーニング

久しぶりの更新です。ここの所、毎回同じ出だしで申し訳ありません…

 

皆さん日々トレーニングを行っていらっしゃると思います。より効率良くトレーニングを行い強くなるためにどうするか?低強度ならば~、高強度ならば~と様々な情報に触れていらっしゃると思います。

 

体が強くなるというのは、トレーニングによって生じたストレスに対して細胞が適応することを意味します。例えば、長い時間走り続けることで多くのエネルギーが必要になる。それに対処するためにミトコンドリアの量や質を向上させてエネルギーを沢山産み出せるようにするといった具合です。

  

今回のポストは持久的トレーニングによって生じるストレスを検知し、そのストレスに適応するためのスイッチとなるAMPKという物質に焦点を当ててお話ししてみたいと思います。そして、低強度や高強度のトレーニングを行う際に注意するべき点について考えてみます。

 

AMPKって何?

 

まずAMPKについて述べてみます。

 

AMPKとは低血糖や低酸素、虚血、熱ショックといった細胞へのエネルギー供給を妨げるストレスに対して応答します。

 

その効果は肝臓や骨格筋において脂肪酸の酸化を促進。グルコースの取り込み促進。グリコーゲン貯蔵量の増大。PGC-1αを活性化させてミトコンドリアの生合成や質の向上。エネルギー消費を減らすためにタンパク質の同化を阻害し、分解を促進するといった様々な機能を発揮します。

 

つまり、エネルギーの消費を抑えたり、同じストレスに暴露した際に対応できるようエネルギーの産生量を増やすような適応を促す物質です。持久的スポーツの競技力向上において非常に重要な役割を果たしています。

 

AMPKが活性化する条件は?

 

それでは、その重要な役割を果たすAMPKはどういう時に活性化するのでしょうか。持久的スポーツに関連している条件に付いてピックアップしてみます。

 

・運動開始時のグリコーゲン貯蔵量は関係無し。運動中及び運動終了後のグリコーゲン貯蔵量が枯渇しているほど活性化する。

・ホスホクレアチンの枯渇といった筋における代謝の恒常性が乱されると影響し、乱れが大きいほど活性化する。

・運動強度が高く、筋の代謝における恒常性が十分に乱される場合にも大きく活性化する。

・乳酸閾値以下といった低強度の運動においては活性化が低い。

 

生理学的知見をどう活用するか

 

さて小難しい言葉を用いましたが役立ちそうなヒントが幾つもあります。まず、AMPKが活性化するのは運動開始前のグリコーゲン貯蔵量は影響せず、運動終了時の貯蔵量が枯渇しているかどうかという点です。

 

どの程度を枯渇した状態とするか不明ではあります。しかし、1時間未満といった短時間の練習で低・中強度のトレーニングを行ってもグリコーゲンの消費量はたかが知れており、効果は期待出来なさそうです。
(例)30分テンポ走を行い300kcal消費した→脂肪と糖質の燃焼効率が1:1くらいと仮定するとグリコーゲンの消費は150kcalくらい。

 

ただし、空腹といった初めからグリコーゲンの貯蔵量が減っている状態でスタートすれば十分適応するかもしれません。食事の量やタイミングをコントロールすることで対応できる可能性があります。

 

また、低強度だとAMPKの活性化は低いようですが、4~6時間といった長時間のトレーニングを行ったらどうでしょう。ゆっくり走ったとしても2000~3000kcalくらい消費しそうです。その半分が糖質の利用によるものと仮定すると1000~1500kcalに相当します。グリコーゲンの貯蔵量は一般的に1600~2000kcalくらいなので、途中で補給をしたとしても個人的な感覚としては枯渇した状態といって良さそうです。

 

グリコーゲンの貯蔵量が枯渇すればAMPKは活性化するので、低強度でも量でカバーできると考えられます。AMPKという視点を持つと低強度を長時間行う必要性に説明が付きそうです。

 

次に、恒常性を乱すのに十分な高強度の場合はグリコーゲンを枯渇させるほど量をこなさなくても大丈夫そうです。

 

それでは恒常性を乱すのに必要な高強度とは何でしょうか。個人的には血中乳酸濃度4mmol、いわゆるOBLAと呼ばれる所が境い目かなと考えております。

 

少し話は脱線しますが血中乳酸濃度についてご案内します。エネルギーを生み出す際に乳酸は産生されます。運動強度が上がるほど産生量が増え、血液中に漏れ出したものが血中乳酸濃度です。そして、細胞の処理能力を超えて急激に上昇し始める点が2mmolと4mmolです。

 

持久的スポーツの場合、2mmol以下を低強度。2~4mmolを中強度。4mmol以上を高強度と定義するのが一般的です。つまり、細胞の環境が大きく変わる点で区分していると言えます。

 

筋代謝の恒常性を乱すのに十分かどうかは何とも言えませんが、この定義に倣って4mmol以上が必要となる強度と考えるのが理に適っているかと思われます。

 

ちなみに、血中乳酸濃度4mmol時のパワーとFTPは近似したというJeffries(2021)の報告があります。私たちサイクリストからするとFTP以上の強度と捉えると馴染み易いでしょう。

 

まとめ

 

・持久的トレーニングの適応に影響するAMPKという物質がある。

・AMPKはグリコーゲンの貯蔵量が枯渇した際に活性化する。

・ただし、運動開始時の貯蔵量は関係無い。終了時に枯渇しているかどうかが重要である。

・筋代謝の恒常性を乱すような高強度の場合にも活性化する。

 

以上、AMPKという物質と活性化するためのメカニズムについて述べてみました。こういった生理学的見地を持つと、経験則として低強度で走り込むのが重要だと言われて来た理由や、高強度が短時間でもパフォーマンスの向上に繋がる理由の説明がつくかなと思われます。

 

勿論、AMPKは持久的なトレーニングの適応を促す様々な要因の一つに過ぎません。これで全てに説明が付くものでは無いことを十分理解する必要はあります。しかし、こういった理屈を知ることでトレーニングに対する深みが出ますし、現在置かれている状況に応じて応用することが可能になります。

 

毎日決められたワークアウトをこなすだけではなく、自分は何をしようとしているのかに目を向けていただくと、より楽しく効率良くトレーニング出来るかと思います。このポストが興味を持つきっかけになれば幸いです。

 

編集後記

 

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参考文献

 

Owen Jeffries

Functional Threshold Power Is Not Equivalent to Lactate Parameters in Trained Cyclists

J Strength Cond Res.2021 Oct 1;35(10):2790-2794. doi: 10.1519/JSC.0000000000003203.

 

参考ブログ

 

Cell Signaling TECHNOLOGY

Attention Required! | Cloudflare

 

Endure IQ

The Cellular Energy Sensor, AMPK: Why it Matters & When it Switches On
This blog will identify the most pertinent findings we found while identifying the factors that contribute to AMPK activ...
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