不安や恐れを乗り越える Part2~明日から使える方法論について~

前回のポストで不安や恐れとはどういった状態なのかについて軽く述べました。不安や恐れを感じるとどういった問題が起きうるかと言えば、覚醒が過度に高くなり骨格筋は緊張し、心拍数が上がり、ネガティブな思考をしがちです。こういった身体的・精神的な効率の低下を防ぐにはどうするかの方法論について今回は触れてみたいと思います。

準備ルーティン

ラグビー五郎丸選手のポーズで有名になった感がありますが、一連の儀式的、あるいはチェックリスト的な方法です。これは、人間の認識できる容量は限られているという考えに基づきます。

本来ならば処理できる容量が限られているのは欠点と言えます。(例 守備でボールだけを見てしまう)
しかし、上手く利用すれば、自己不信や失敗するのではないかといった課題に関連しない思考を排除することを可能足らしめます。

例えば、ウェイトの挙上前に、バーを握る位置や足の位置、背部の姿勢といった重りを上げるという課題に関連する信号に集中するための動作を確立し余計な思考が入り込む余地を無くすといった具合です。下記の動画をご覧ください。試技の度に同じ動作を行っているのが良く分かると思います。

こちらはパワーリフティングですが、エンデュランススポーツに応用するならばウォームアップを毎回同じにするといったやり方が良いと考えております。同じ内容で行っていれば必要な時間も分かりますし、普段との違い(体が硬い、足が重い・軽い)も掴み易いです。

受け持っているクライアントの方によっては「アップのやり方を紙に書きだして、それを毎回行うように」といった指示を出す場合もあります。そして、上手くいった・上手くいかなかったをメモして次のアップの時にどうするか考えようと伝えます。

横隔膜式呼吸

いわゆる腹式呼吸というものです。思考を呼吸に集中させることで不要なものを取り去り、注意の容量を増大させます。リラックスした自然な方法で、深くリズミカルな呼吸を行うことが重要です。

横隔膜式呼吸は、筋の活動が精神のリラクゼーションを引き起こすことを意味しています。通常よりも深い吸気後、コントロールして息を吐くことで迷走神経の緊張の上昇、副交感神経の活性が生じ、骨格筋や器官(心臓や肺等)への刺激を低下させ、結果的にリラクゼーションをもたらします。

この横隔膜式呼吸はストレス管理の基本テクニックであり、他のメンタルトレーニングの準備・基礎となるものです。

漸進的筋弛緩法

漸進的筋弛緩法とは、骨格筋の張力をコントロールすることによって心理・生理学的覚醒を調整するテクニックと定義されます。具体的には、筋の緊張と弛緩を交互に繰り返すことによって身体的緊張を認識し、コントロールする術を学びます。理論的には相反抑制と呼ばれるメカニズムを利用したもので、リラックスした身体はリラックスした精神を促すという原則に則ります。

やり方としては、ある筋(例 上腕二頭筋等)を10~15秒間ほど収縮させ、過度の緊張を生じさせる。その後、筋肉の緊張を解き、同じ長さに渡ってリラクゼーションを得るようにする。人によっては鍼灸按摩やマッサージを受ける時にやった事があるかもしれません。

先程の横隔膜式呼吸とこの漸進的筋弛緩法を行うと寝付きが良くなった経験があるので、個人的には寝る前にやるのをお勧めしております。

セルフトーク

読んで字の如く自分自身に向かって話しかける方法です。鏡に向かって「俺は出来る。俺は強い」といった言葉を投げかけているのを見たことがあるかもしれません。一種の自己暗示といって良いと思います。意外に思われるかもしれませんがセルフトークの有効性は科学的にも証明されています。

例えば、Barwoodが下記のような研究を報告しております。

概要

・14名の男性被験者
・トータルで4回のタイムトライアル(TT1-TT4)を実施した
・2回目のTTを終了後タイムに応じてグループ分けを行い、3回目のTT終了後にmotivational self-talk(M-ST)群とneutral self-talk(N-ST)群とに分けた。
・M-ST群は「もっとハードに行ける」「最後まで体力が持つ」といったポジティブな言葉。N-ST群は「足が痛い」といったネガティブな言葉や「お気に入りの色は緑」といった課題に関係の無い言葉を言うようにした。

結果

・N-ST群に比べてM-ST群は13-71秒のタイム短縮

・主観的運動強度(RPE)は変化なし

・パワー、VO2max共に向上という結果をもたらした

この研究のように、ポジティブな言葉を投げかけるだけでパフォーマンスが向上するならば安いものです。騙されたと思ってやってみても良いでしょう。

そして興味深いことに、自分自身に対してポジティブなセルフトークを行うよりも、録音されているポジティブな言葉を聞きながら運動を行う方がパフォーマンスの向上を示すというHamiltonの報告があります。携帯などにポジティブな言葉を録音してレース前に聞いたり、他の人に何か言って貰うようにすると良い結果を生むかもしれません。

前回お話ししたのは基礎中の基礎ですし、今回お話ししたのは方法論です。比較的導入しやすいモノを中心にまとめたつもりです。何か一つでもやってみようかなと思って頂ければ幸いです。実際に試してみなくても、不安や恐れというのもは対処のしようが無い得体の知れないモノではなく、やり方によっては御しえるものと認識していただくだけでも大分違うと思われます。

これからレースシーズン真っ最中になります。皆さんの目標達成のために、体力や技術以外の側面から何かをやってみても良いと思います。

参考文献

Baechle T.
Earle R.  編

Essentials of Strength Training and Conditioning.

National Strength and Conditioning Association

Mujika I.

エンデュランストレーニングの科学~持久力向上のための理論と実践~

有限会社 NAP

Barwood MJ

Improvement of 10-km time-trial cycling with motivational self-talk compared with neutral self-talk

Int J Sports Physiol Perform.2015 Mar;10(2):166-71.

Hamilton RA

Assessing the Effectiveness of Self-Talk Interventions on Endurance Performance

Journal of Applied Sport Psychology.2007 April;19(2):226-239

タイトルとURLをコピーしました